家/小川 葉
な棚にならぶ
同じような水の味の違いは
本当は誰にもわからない
同じような景色を歩くうちに
僕は世界を一周したようだ
日が暮れてしまったから
夕餉の良い香りが
世界の意味を無意味にしてしまう
僕はまた家の前にいた
こんなひどい借家はどこにもなかった
それでも窓から漏れてくる
息子がはしゃぐ声と
妻の笑い声
そんな家は
この世界のどこにもなかった
僕は玄関の戸をあけた
ただいま
と言いたかった
ごめんなさい
とも言いたかった
けれども言葉だけではあらわせない
気持ちだけがいつまでも
そこに立ち尽くしたままだった
戻る 編 削 Point(3)