『白秋』/東雲 李葉
 
高いというより遠い空。
燃え燻った情熱がかすかに見ている夢のあと。
泣いて喚くくらいならすべて忘れて眠ってしまえ、
と優しい声に誰も耳を貸そうとしない。
じりじり焼け付く太陽の下、墨のような影を引き連れて、
とてつもない高さへと駆け上がるだけの朱い季節。
恐れるものなど何もなく信じる道が唯一だった。
乾いた砂塵の彼方に見えるのは眩しいまでの夏の幻。


歓声と、やけに冷たい鼓動とが渦になって耳を巻く。
抑えなければ立っていられぬ末端を奮い立たせて前を向く。
風は熱く汗を滴らせ景色は時折鈍く歪んで、
白い雲は知らん顔して青い僕らを見下ろしていた。


髪はだいぶ伸びてきた。空気は澄んで空が遠い。
頬を刺す風は冷たくポケットの中では四角い手がだあだあと、
母を探す赤子のように夢を見せる熱を求めている。
秋はこんなにも白い。
長い夜には夢の中でさえ終わった夏を繰り返す。
今日はこんなにも白い。
かすかに煙たい心臓はあの日の血の色を忘れてしまったのか。

…いや、憶えているから僕は無色になりきれないのだ。
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