子供ではないのだから/鈴木
。右手を軽く上げた椎名から、はじめまして。
艶やかな香りがした。奥の広場では真っ裸の子らが男女、輪になって歌い踊る。再度の乾いた爆発音と共に一人の女児が砕け散る。敷地を囲む木々が知らぬ間に密生しており空を覆わんと葉を広げていく。椎名は浮かせたままの手で円を描き、その中心をこちらへ向けて貫く。どこへ連れて行ってくれるの、天狗さん。
顔に手を当ててみると鼻が伸びてやたら硬い。面を被っていたようだ。外す。風が頬を冷やしきれない。椎名が面と素顔を交互に見やる。おれだよ、おれ。声、出ない。眉根に寄せた皺も麗しい。誰。
壁掛け時計の針が午前十一時四十分を指している。ユニットバスへ向かうために立ち上がる。玄関では、殆ど透けてしまって存在感のない、赤い振袖を着た影が座って草履を履いている。生島先輩は洗面台へ入る。ああ、無理。部屋へ戻り携帯電話を開く。ごめん、五分くらい遅れるわ。扉。
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