子供ではないのだから/鈴木
 
新聞社を希望しているものの、激しい競争を勝ち抜けるほどの才気は感じられない。生島先輩にとって重要なのは胸よりも才気だった。もう会わないだろう、と彼は思う。右膝を後ろへ曲げて指でハイヒールに踵を滑り込ませるとき下ろしたままの髪が幾房か震えてさようなら。この状況を鶏肋と言葉にしてしまうだけの才気しか生島先輩も僕も持ち合わせていないけれどもさようなら。扉が閉じる音。
 叫ぶ。反応ない。一人のようである。意識はぶれて音なく、雲の中を飛行する旅客機のように不安を醸す。一瞬だけ眠りに落ちたものの空一面を巨大な狐面が旋廻する様に驚いて起きた。さて先ほど出て行った多重の女その二人目を引っ張り出してみよう。なぜそ
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