季候に順う/小野カオル
 
 見慣れた日本橋を歩いていたが、風景がいつもと違って見えた。どうやら午前中のお祭り目当ての人出があったようで、いつもより歩いている人の数が多かった。ヨーロッパの街並みのように広い「中央通り」は高島屋から日本橋、三越デパートのあたりまで黒い人だかりが続いていた。この近辺は江戸時代の区画を踏襲して空間が広く取られている。そのため、人が多くても騒々しさを感じない。音は空間に吸収されてしまう。

 江戸時代にはこのぐらいの人がいたのだろうか、いやもっとごったがえしていただろう、日本橋の下を流れる日本橋川には今の濃い泥緑色とは比較にならないほどきれいな水が流れて船もたくさん出ていたはずだから。それでも木
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