サイダーは引き戸を開けたから/KETIPA
 
があらゆるものを変質させてしまうということに
はてしない恐怖と絶望をいだきながらも
今までずっと触れたかったそれらのものに
触れていくその先から今触れたものが何だったのかわからなくなってゆく
ああこれは何だったのだろう
これもこれももはやとろみのある液体になってしまい
いくつのものが溶けてまざりあってしまったのかすらわからない
こんな手がこんな手ごときが
触れたいものから順に変質させてしまう
触れたくないものはいつまでたっても目の前から溶けてゆかない
こんな手で触れただけなのに
こんな手なんてもう
自分の手をかざしてながめて
その二つの手を合わせて強く合わせた
左側の手が右側の手を溶かし
右側の手が左側の手を溶かし
痛みすらなく両方の手は
さっき自分で溶かしたものたちの中へまざりあっていく
ぽたりと最後の一滴が床の液体にまざると
右側の手も左側の手もなくなっていた
もうこれで何に触れてもそれを溶かしてしまうことはないんだ
でも今度はいったいどうやって触れればいいのだろう
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