ノスタルヂア/亜樹
冬の立つ前の最後の雨です。
サルビアの花が燃えるように赤くなる。
(巷に雨の降るように)
さびしいさびしい晩秋です。
山ははらはら葉を落とす。
(巷に雨の降るように)
疲れた女が歩きつつ一人寂しく呟けば
なにやら胸が塞ぎます。
(巷に雨の降るように)
肺に降り積む綿埃
えへんえへんと咳き込めど
少しも楽にはなりません。
(巷に雨の降るように)
すれば小高い梢から
「それはノルタルヂアの云ふものぢゃ」と
冠者が言うのを確かに聞いた。
(巷に雨の降るように)
【ああ、そういへば、この冬に】
【おかあさまは、おいくつになられるのか】
冬が立つ前の最後の雨です。
割れて落ちた柘榴も赤い。
(巷に雨が降るように)
ノスタルヂアの積もる日です。
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