本家/小川 葉
 
 
本家の夜更け
障子のむこうの影を
目で追いながら
人の鼾と鼾を調和させ
命のありかを探すように
それらの影と音は
まだ幼い眠りの夢のように
瞬きを絶やさず生きのびていた

これから朝まで
気づいたら朝になるまで
知ることのない時の間に
人が目覚めて
命の仕度をする音を
信じて疑うことなどしない


真夜中の夜
脈から脈へ流れてゆく
血の流れる音

その流れる影を見届けるように
晴れの日を想い出す
わたし以外に
目を覚ます者は誰もいない


青白い朝
障子の戸を開ける音がして
すぐに閉じる音がして
目を覚ませば

わたしのからだの濁流の
血がその時に合わせて目覚める
障子のむこうの
影が人のかたちになる

味噌汁をひとくち飲む
からだが熱くなる
夜の記憶は幻のように
消えてしまう
 
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