夕暮れにて立ち込む釣り師/北村 守通
おそらく
鱒たちが
お月さんの脇をくすぐる
ボクの足を
くすぐってはくれない
鱒たちは
ボクの投げる毛鉤の
届かない
はるか
はるか
彼方の水面直下で
輪を描いて踊り
あるいは
水面に
輪を作り
それがいつしか
月と一緒に
星と一緒に
旅館か土産物屋かなにかの
明かりと一緒に
笑い声になって
笑い声になっていやがって
ボクは一人ぼっちで
それを聴かされ
これでもかというぐらい
楽しげな
不愉快になるくらい
楽しげな
メロディーを奏で始めて
ボクの奏でる
フライラインの
ギクシャクとした
雑音は
消されることを余儀なくされて
おかげで
また
ボクの頬を
一滴が
垂れ落ちていくのである
戻る 編 削 Point(7)