無題/岡村明子
あなたから溢れる潮の音が満ちてくる
私は抱かれながらあなたに浸されていく
こんなにも安心して
私は生きている、と思う
フローラの口から
花がこぼれるように
私とあなたの口から
流れ出す
はかなく
あたたかいもの
が
なくなってしまわないように
おたがいの口を塞ぎ、求め合い、溶けていく
このまま
泡となって消えてしまえば どんなにいい
か
しかし
うつろな朝は容赦なくやってくる
舞台装置が大転換するように
緞帳が開くと
海も砂浜も何もかも消えていて
あるのは
煙草くさい薄暗い部屋
ワイシャツに着替え出て行くあなたの後姿
テーブルに残された
ビールの空き缶と柿の種と
五千円札
(イヤナンデス、
アナタノイッテシマフノガ)
私は枕をもう一度だけしっかり抱きしめ、
シャワールームへ向かう
外へ出ると
カラリとした朝が私を待っていた
無頓着な日常
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