救世主からの伝言 /服部 剛
 
「幸福の青いベンチ」は 
いつのまにか色褪せ 
人々の重みに板も、折れていた。 
僕はそろそろ背を向けて 
新たな地平に、歩き出そう。 
遠ざかるほどに小さくなる 
「幸福の青いベンチ」の 
輪郭は徐々に薄れ 
やがて、幻と消えた。 
旅を始めた僕の愛読書は 
ズボンのポケットに膨らむ
文庫本の「イリュージョン」 
旅の途上で疲れたら 
老樹の木陰に腰を下ろし 
幹に凭れ、本を開く時 
頁の余白の空を飛ぶ 
トラベルエアーの 
不思議なパイロットは僕に云う 
「 自由とは、他の誰でもない 
  君自身が、決めることさ  」 
本を閉じ、ふたたび僕は歩き出す。 
見上げた青空に一つ 
風まかせに漂う雲の傍らを通過する  
幻のトラベルエアーが宙返りして 
地上の僕に、合図を贈る。 
目の前には只 
360°の大地が 
果てなく広がっている 
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