美しきもの/星月冬灯
 
 この世で美しきもの
 それは稚児の顔。小さき子らが飴玉を
 口にほうばっている姿。
 娘さん。清潔な落ち着きのある
 美しき女学生。
 若き青年。青春を謳歌して
 日々を生きる。
 栗の木。春の風にたなびく大きな大樹。
 小鳥。大空を羽ばたく小さくも大きな鳥。
 秋の夕陽。黄金の稲穂に映える雄大な夕陽。
 美しきものは
 だんだん  だんだん
 堕ちてゆく。
 堕落してゆくそれらは
 もう元には戻らない。
 みんな  みんな
 堕ちてゆくしかない。
 這い上がる術が見つかるまで。
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