「乖離」/広川 孝治
あの人に僕は捨てられた
そよ風に逆らわず首を振りながら
淡いピンクと白のコスモスが
群れをなして羊雲を見上げてる
あの人に今日、僕は捨てられた
大河のように流れる雲と逆向きに
鳥の影が小さく動く
「さようなら」、あの人は無表情に言った
音もなく舞う蝶たちが花から花へ渡り歩き
トンボの羽音が駆け抜けてゆく
だから僕は死のうと思った
河は秋風にさざめき
時折跳ねる魚の水音が止まりそうになる時を動かす
はちみつ色の光が川面の乱反射を作る
だから僕は死のうと思ったんだ
河べりに立つ男の影はどこまでも長く
やがて沈みゆく夕陽が
全身を血の色に染め上げた
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