サイレンとバタフライ/雨を乞う
 
 

 空のナイフを持て余し、いつでも誰かをぶっ殺すような覚悟で歩いていく。狭い空の色を覚えているかい?薄曇りの麹町は細切れになってしまったがそれはそれは不安なほどきれいな紫。向こう側を望んでばかりの常夜灯下で味方のいないハッピーエンドは続くのだ。新月と同じ色の君の目を見ている僕の近い距離、遠い核心、こんなにも意味の無い関係がこの夜にはあった。

 犠牲の上の生命であるというなら僕は誰の頬が濡れるのを隠す雨になるだろう、その誰かは他でもなく君が良い。僕が物言わぬ怪物になったそのときは君が新しい名前をつけてくれればいい。籠を抜けた鳥になったときはもちろん忘れてくれるんだろう?

 新宿通りから警察車両が往来する音がする。星のない夜空は寒いのに、こんな町にも金木犀の匂いはするんだな。

 
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