感覚器倒錯的迷走期/木屋 亞万
 
朝、ドアを開け部屋を出たら
うなじの気配がした、かなり巨大なうなじだった
嗅覚の部署が暴走し、象一頭分くらいのうなじを髣髴とさせた

左脳が「オーデコロンに浸けすぎた女性が通った後の残り香である」と判断した
すぐに「それにしては残り香が残り過ぎだが」という嗅覚の反駁にあい
やけくそになった左脳は「変な男がシャンプーのボトルの中身でも撒き散らしたのだろう」
という結論を出したが、脳内会議で納得する部署は現れなかった
花弁を搾り取ったような香料の匂いだろうという意見が会議の主流であった

階段を降り、道に出て、河原に沿って歩く
うなじ臭が強くなる、妙に艶っぽい、湿度がそれを助長す
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