夏の弔い/亜樹
 


 日陰に群れていたからすとんぼが姿を消し、最後の蝉の声が消える頃、里はようやくその連鎖から逃れられる。収穫の季節である。秋という言葉がもつ郷愁は、里の中でしみじみと里人の心に響くことはない。あわただしくもにぎやかな収穫の合間に、里人は重たく暗かった夏を忘れ、ただ今年の米のできのみに一喜一憂をし、晴れ晴れと笑い、酒を飲み、芋を喰らい、大いに楽しむ。

 そうして、全ての田が丸裸になる頃、忘れられた死を悼んで、畔道は真っ赤に染まるのだ。
 彼岸花は、夏の弔いの花である。
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