「お隣さん」/菊尾
生前に使ったことのない物はいくら念じても形にすることができなかった。
生前の感覚で喩えるならここは妄想の世界だ。妄想も想像も想念の世界であり、何より僕らが想念の塊だ。
実のところ駅まで徒歩10分も家賃が安いという理由も名目上の理由であり、実際には勿論家賃なんか払っていない。
とは言っても生前でさえ家賃は引き落としだったので支払う感覚はその時から乏しかったわけだが。
ただ全ては感覚なのだ。そうしているという感覚だけがある。頭では理解しているはずなのだが。
今更だが僕と田中くんは一度死んでいる。それも自覚しているがここを離れずに普通に暮らしを堪能している。
死んでも僕ら
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