影のない犬/小川 葉
たくさんのくだが
生き物としてひとつひとつ
呼吸してる
反面そこにはいつも
ニヒルな顔して詰襟を着た
兄がいた
たぶん
高校生だった
彼のことを今は誰に聞いても
知らないと言う
ビーカーに
薬品を入れて
破裂させる実験をした
おそらく兄も
まざりあうたびに
血は濃くなり薄くもなり
それらが流れるくだは言うまでもなく
ある朝犬を見た
寝起きの休日にぼんやりしながら
朝はいつでも朝ではないような気がしていて
それでもやはり朝だった
犬に影はなかった
なかった気がしていただけなのかもしれない
ただそれだけのように
詰襟を着て
ニヒルに笑う兄を見たのも
それが最後なのかもしれなかった
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