風を見ると懐かしい/木屋 亞万
私は昔、風でした
どこからが私で、どのような私か
わからないままに
木々を揺らし、髪を靡かせ
生きていました
高いところから低いところへ
汚いところも、美しいところも
青いところにも、赤いところにも
流れてゆきました
楽しいところもあれば
悲しいところもありました
刹那の経験が心地よく
蓄積しない経験が辛くもありました
誰かが死んでいても、生まれていても
私はただ通り過ぎて行くだけ
凪げば眠り、吹けば目覚める
死ぬことなどないような暮らしの中にいても
やはり私も死んでしまったので
今こうして言葉を操っているのですが
あなたは風がいつ死ぬか、ご存知ですか
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