「秋の訪れ」/広川 孝治
 
どこまでも遠い空
小さくかすむ手の届かない雲
冷たさをはらんだ風
刈り取られた切り口をさらす稲の列に舞うトンボ
ただ黙って揺れるコスモス

どこまでも遠い山並み
かすむ道の行く末
寒さを予感させる風
どこにいるともしれないつれあいを求め歌うコオロギ
ただ黙って散る木の葉

どこまでも遠いあなた
小さくかすむ暮らしの記憶
冷たさをはらんだ言葉
見るたび胸をえぐられる二人並んだ笑顔の写真
一人ただ黙って飲むコーヒー

訪れた秋の暮らし
凍える冬を予感させる秋の暮らし

まだ見えない春
いつまでも見えない春

ただ沈みゆく太陽
沈みゆく僕の心

どこまでも遠い空
小さくかすむ手の届かない雲
冷たく ただ冷たく吹く風
心の切り口にまだ流れている血の涙
ただ黙って耐える今
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