眩暈/蒼木りん
 
「逢いたい」という言葉ひとつで川を渡る

私は

腰まで浸かる深さに少し不安を抱きながらも進んでいく

幸いにも 

晴れた日の水の流れは穏やかで

こころ乱す喧騒のない水音だけに救われる

むしろ

温められた川底の石が滑らないか心配で

慎重に足をはこぶ

この川の中ほどで待つという

あなたをめざして


深みはエメラルド色

どうしようもなく流されるなら

ふたり

ともに


「おまえを抱きたい」という言葉で

放電され痺れた背骨

ウォッカで焼かれた胸のよう

蛹を脱いだ蝉が狂ったように喚く

真夏の狂気を
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