ミカさん/亜樹
 
った。
「……静かの海」
「え?」
「ご存知ですか。あそこ。月の、あの部分。あそこを『静かの海』と、いうのです」
「……そうですか」
 立ち止まると、明るい晩により一層色濃く、ミントが香った。
 彼女の干した白いタオルに、その香りが移って、微かに淡いグリーンに染まったように見える。
 そうして、思いだす。
 ミントというのは、花の咲く前にもっとも香りがきつくなるのだと、学生時代に園芸部だった友人が言っていたのだ。

 ならば、まず間違いなく、ミカさんは咲く前の花だ。

戻る   Point(3)