ミカさん/亜樹
仕事柄、深夜に帰ることが多くなる。
駅から家まで帰る道のりの、唯一曲がらなければならない角に、その家はあった。
日付が変わろうとするような時間帯である。
だというのに、その家の家主であろう女性は、いつも洗濯物を干しているのだ。
おそらくは、自分と同じような、夜型の仕事なのだろう。
年の頃は、おそらくは自分よりも少し上だと思う。
長い髪を一つにくくって、化粧気のない顔で、バスタオルを物干しにかけている。
家の中の灯りが、その顔を照らして、テレビからは深夜番組特有の、かわいた笑い声が聞こえた。
その家の庭には、ミントが生い茂っていて、ひどく涼やかな匂いが充満していた。
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