左ポケット/小川 葉
 
 
駅のホームで
乗り換えの汽車を待つ
少し味の濃い
月見そばを食べながら

かけそばにしようと思って
左ポケットを探したら
小銭が思ったより入ってたので

長い線路を
そばのようにすすり
千切れるたびに
僕は汽車を乗り換えてきた

食べ終えて小銭を払うと
立ち食いそば屋のおばさんは
左ポケットにしまった

とてもいい月だった
母と見た
そばのような時は
ときどき千切れるように
思い出となる

なあ、母さんよ
この故郷の家で僕は
暮らしてたんだ
覚えているかい、母さんよ

母さんは
左ポケットから小銭を出して
お小遣いだよと
僕にくれる
 
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