赤い屋根の多い町/かいぶつ
 
僕が机の上に
大きな地図を広げても
働き者の男たちは
こんなものただの古新聞じゃないか
と言ってバケツの水に漬けようとする

ほらここが
僕らの生まれ故郷だよ
そう指し示しても
男たちは足の裏を覘いたり
掌の匂いを確かめようとするので
僕は地図を几帳面に折りたたみ
お尻のポケットにしまい込んだ

お別れの挨拶を手短に済ませ
ダストボックスに
ガムを吐き捨てる
それが男たちの持っている
すべてのような気がして
男たちと過ごした四年間を
この沈黙に近づけまいと歯を食いしばった

地図上に書き込まれた
記号と言葉
妹が大事にしていた犬の落書き
緑色の蛍光
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