潮宿/田代深子
赤土の皿に赤い身
濃い溜まり醤油と
潮気かおる雨宵
ここでしか漁れんもんやから
引き戸かたつく飯どころ左隅で
ちらちら横目くれられビールを半分まで
流し込む
わぁ美味しそう など身に馴染まぬ嬌声
箸でふれ その光る赤い身を醤黒に
よごす
そこは
岩むくろうちすえる潮の際
岬に切れ込む驟雨をものともせぬ時速
八〇キロの軽トラックに追われて
ワイパーもうろたえた 二の腕がしびれ
弛緩する そのまに
ガードレールをひき裂き跳ぶ一齣
が幾度かまたたく 逆光にすさむ海
の ひらける またとじ また
ひらく
あれは
浪か 墜ちれば喰いつくされる黒潮
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