卒業の日/佐々宝砂
赤い背景にボクサーの姿が描かれた
そんなポスターの前で
彼は教師と言い争っていた
ポスターは剥がされ筒に丸められ
彼の小脇に抱えられた
教師が立ち去ると
彼はこちらを振り向いた
腐ったヤツガシラみたいな顔だった
「いろいろあったの、いろいろ」
やっとの思いで打ち明けると
彼は黙って私の肩を抱いた
「私すこしは変わった? 前より優しくなれた?」
彼は黙って目だけで笑った
口元がなんだかイノシシに似ていた
教室に入ると
私の席はあったが彼の席はなかった
彼のポスターはゴミになるだろう
彼にはもう会えないだろう
今日は卒業の日だったのだと
私は不意に思い出して泣いた
(2001.8.16)
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