家事/吉田ぐんじょう
・
掃除をすると
部屋の四隅から
無限に白い米粒が出てくる
表面は乾いて
埃にまみれて
まるで
昔わたしが産み落として
そのまま捨てた卵のようだ
・
遠くに見えるラブ・ホテルの灯りを
ぼんやり眺めながら肉を切る
あの四角い
鉄錆のにおいのする部屋で
どんなプレイがなされているのか
想像しながら脂身を丁寧に取り除く
うすぐらい電灯が
どんな汚いことも押し隠してくれるように
白々しくともっている
・
買い物の帰りに
ふと消えてしまいそうな感覚に襲われる
つまさきから揺らいで
掻き消されて
あとには
夕暮れしか残らないような
不安だから
お豆腐のパックなんか握りしめて立ちすくむ
現実感のあるものを
少しでも現実感のあるものを
自分が確かに居ると分かるように
・
洗濯物を
取り込んでいる夕暮れ
放課後の中学校から
練習中の鼓笛隊の
勇ましいマーチが
間の抜けたように
漂っている
戻る 編 削 Point(19)