September,11/広川 孝治
あの日
ママは誕生ケーキを買って来るはずだった
四角くてイチゴが四隅にあって
もちろんバタークリームのいっぱいのってるやつ
僕が六本のろうそくの火を
吹き消すはずだったんだ
だけどあの日
ママはビルの63階で
風になっちゃった
炎に包まれて
ほんとはね
僕が風を吹かせて
炎を消すはずだったんだよ
でもね
ママはビルの中で
炎に包まれて
風になっちゃったの
ねえ
知ってる?
風って抱きしめられないんだよ
ママが風になったって聞いて
お外に出て
抱っこしてもらおうと思ったんだ
でもね
風は僕の広げた両腕をすり抜けて行った
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