遡航/小川 葉
 
 
野菜が野菜の味がしないし
なによりも
僕が僕の味がしないから
ごはんは船に乗った

旅に出るつもりではなく
綺麗な女の人に会うために
船は川でも海でもない
水があるところならどこでも
遡航していった

船が船の錆びるにおいがすると
見たこともない古い静謐が
港のあたりに訪れていた

試しにその港で野菜を食べてみると
まだ野菜の味がしないので
ふたたび船に乗る

それはそれとして
あの綺麗な女の人は
パンよりもごはんが好きだといわれる
僕のお母さんなのだろうか

それだけが気になって
ごはんは船の積荷の中で
炊き立ての湯気を立てる練習をした
 
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