不感症女の数時間/詩集ただよう
 
れることも、望んでいたかもしれない
これも今思うと、だけど、私がこの年になるまでに出会ったどこの男も、やるときになると同じように、母を置いていった父の思い出と同じように、少しでも感じられていた父性が消えかかっていって、私に向かって、どくんといってしまう
私はいつも、よがった声を出す唇に、口紅を塗ってあげたくなる
一瞬だけど、いつも思う
そんなときに限って、まわりくどく話し掛けてきた、赤坂プリンスホテルでの商談の話や、新しいトヨタのエンジンの話や、わざとらしく聞こえていた誉め言葉なんかを、思い出してしまう
この部屋の彼は、こうして、私に優しくいい聞かせ、私は裸で、食事も取らず、ソファーに沈みこみ、時間が長くなっていくように感じている
彼はいつも私にわかりやすく喋ってくれる
きつい言葉ではぐらかしたりもしない
只、何もせずに待っていろと、言う
後ろからタイを緩めながら歩いてくる彼が、優しくガウンをかけてくれる頃には、私は涙を流して、すがりついてしまいそうな程、感じている
剥がれかけのネイルの中指の腹で、触ることもせずにいる
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