神楽火法典/詩集ただよう
 
された念書に指紋を、残したか、残してはいなかったか、疑問符の数だけ、微動だにせず、松明を見つめている。
外套を着込み、座り込み、男は何を考えたか、考えられなかった。

神楽坂に大挙して訪れていた消防員五十七名は鎮火を終え、午後二時をまわった頃よりふき荒れていた春一番と、その甚大に及ぶ被害状況に、各々がそれぞれ精悍さをもて余している様子、動転した気を隠せず怒鳴り散らす料亭の女将は帯にはさんでおいた携帯電話の着信にやっと気付いた顔、かたや袖から伸ばした指を前後に動かし、若い男に台帳を取ってくるよう指示した。すすでこけた頬の少女は瞼を深く、下ろし、八台の内国立病院へ向かうつてのある救急車輌へ担
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