さよならの夕暮れ/オイタル
山陰から拳骨のように雲がわいた
ぼくの心は
あの夕暮れの雲の高さにある
ステテコ姿のじいちゃん
三輪車に乗るねえちゃんとおとうと
帰りましょう あのときへ
森陰に切れ切れのヒグラシの夕暮れ
停車する車の黄色いウインカーの点滅
立ち乗り自転車で不意に現れる中学生
玄関に止まった赤い車と
台所から漏れる黄色い明かり
懐かしい夕暮れは
道の辺にその花びらを満たし
薄いレモン色の花びらに
頭上を走る陸橋
ぼくは通過する電車の下をくぐって
急いで家に帰るところだ
悪いけど さよなら夕暮れ
シャボンのように空に離れた雲に手を振って
もう
明日のことさえ さよならだよ
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