満ち潮の数々/A道化
朝の花瓶から落ちたばかりの
新しい百合の花の傍らに
朝の床にて閉じたばかりの
新しい蝶々を添えたらば
一滴も流れず
ふたつ
満ちた
何も願わない夏の朝
百合の花と蝶々のように、何も願わず
部屋から部屋への干からびの廊下の
ひび割れを避けたりせず
合った、ひび割れの両側と私の素足とで
みっつ
満ちた
何も願わない夏の朝
椅子まで辿り着かなくても、何も願わず
壁にもたれた呼吸器官を包んだやさしい肋骨の波
静かな上下の個々、唐突な咳の個々まで
嗚呼、わたし
ひとつひとつ
満ちていた
2004.7.24.
戻る 編 削 Point(6)