勝負/明楽
「はい!あなたの負け!」
突然 耳元で声がしたかと思ったら
なみなみと水をたたえたバケツが
くりーん!とひっくり返ったみたいで
頭の上から遠慮ない勢いの衝撃が降ってきた
ずぶ濡れになったけれど
拭うタオルがないから
ポタポタ水が滴り落ちる身体を抱えて
かちかちと立ち尽くしていた
一体いつ
何の勝負をしたというのだろう
覚えがないのに
負けを宣告された上この仕打ち
まったくもって さっぱりだ
だけどこころのどこか
タンスと天井の隙間くらいの幅にうつ伏して
やっぱりな
と 小さく納得している自分がいるので
覚えはなくても
何か勝負事の真っ只中だったのかもしれない
そして負けたからには
何か面白くないことがあるものなのだろう
まあ、そんなもんだよな
諦めるように呟いて
鼻をすすった
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