喪失の仮面/二瀬
 
しめった風が頬をなでるのをやめ、
埃のような雲霧が二人の呼吸を失わせていく
白くかすんだ記憶の中で
街灯だけは飴玉のように赤く潤んでいたが
  
  私はそこにいるはずなのか
  そうでなければいけないのか 
                 
前面に立ちふさがった君
が手向けた傘は、小刻みに震えている
君は何か言ったのかもしれない
今も
むかしも
誰かを待ち続けていた肩は少し濡れ
ヒヨドリの甲高いさえずりが
響いていた、という概念だけの残存
そういうサイレンス

  名前を呼ぶのは
  そこにいる証拠なんて何もないからなのに         

寒くない
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