男の走る距離は、/ブライアン
白布温泉から急激に下る坂道を男は走っていた。全長5kmの第6区。男の肩にはピンク色の襷がかけられている。男の走る周囲には葉の落ちた木、杉の木以外目に付くものはなかった。男のペースが上がる。前を行く選手の背中が見える。その選手の視線は第7区の先にあるゴールを見ていることだろう。だが、男が見ていたのは第6区のゴールだけだった。男には襷をつなぐべきアンカーがいなかった。このレースでゴールすることはできない、と男は知っている。
男は前走者の苦しみに歪んだ顔を思い出す。穴という穴から体中の水分を放出させていた。短い手を精一杯突き出し襷を渡す。お願いします、と前走者は言った。いったいこの襷をどうすれば良
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