雨の降る寂しい夜/飯沼ふるい
 
雨の降る寂しい夜は
樹海に似た空気を宿している
 
車の黄色いヘッドライトが雨に溶け出して
道端の排水溝に流れていくさまに寒気を覚えながら
傘もささずに一人歩いていた
 
煙のように揺らめく遠くの景色が
行き先という行き先を暗くさせるのと
僕がわざとらしく遅く歩き
ひた向きに感傷に逃げようとしたのには
少なからず関係があって
 
それはずぶ濡れてしまった水溜まりの樹海と
そこに横たわる自殺の腐乱死体の関係にも似ている
 
なにが悲しくて
指先の温もりを無くしてまで
歩き続けるのだろうか
 
いったい
どれほどの雨粒たちに
したたかに撃ち抜かれていれば

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