未来がまだ懐かしかった頃/小川 葉
はじめて
家族旅行に行った
夜の宿で
そこは二楽荘というんだけれども
楽しいことは
一つや二つどころではなく
三つも四つも
心配など
なにもなかったから
いくらでも夢中にはしゃいで
はしゃいで
家族で笑ってばかりいた
今はない
あまり
おいしくなかったおさしみや
少し傾いた部屋
どきどきしていた
未来が
まだ懐かしかった頃
朝
妹が
窓から見える
サントリーのビルボードを
サントビール
サントビールと言って
指差して
見ていた
動物園や
遊園地に
はじめて行った
次はどこに行くの
と言ってるうちに
家に着いた
また行こうね
と言って
言ってばかりで
時は過ぎていった
あの小さな妹は嫁ぎ
あの妹と
同じ年頃の
僕の息子が
サガヤキュウビン
サガヤキュウビン
と言って
時を未来へ
配達してる
さがしても
今はどこにもない
未来がまだ懐かしかった
あの頃へ
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