未来がまだ懐かしかった頃/小原あき
未来がまだ懐かしかった頃
人々は人々を愛していた
過去や現在や悩みや
未来のこないわたしたちには
自分と他人の境目がなかった
実際はあったのだけれど
それを見極める手段を知らなかった
いや、
知る必要がなかった
わたしはあなただし
あなたはきみだし
きみはかのじょだし
かのじょはかれだし
かれはおまえだし
おまえはあんただし
あんたはぼくだし
ぼくはわたしだったから
未来がまだ懐かしかった頃
それはいつ頃だったのだろう
今は
過去や現在や悩みや
未来が当たり前にくるから
明日への不安もあるし
自分と他人の境目を
知る必要がある
あれは
空が遠くなって
秋が始まる
飛行機雲の切れ目が
開いたときだったかもしれない
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