Nemo/二瀬
前髪が濡れていて、うまく夜風に
流れてくれないのを感じながら
腕を軽く上げた先の
線香花火に、視線を戻した
断末魔の産声が
チリチリと聞こえていたはず
かつての夏の夜
赤い輪郭を伴った黄色の雫が
照らす、私達の白い足下
本当はこれで、十分だった
暗く狭い夜空が
彼岸花の茎の放物線を辿るように
駈け抜けていく、
重い光の繊維に広げられて
次に解放される赤い花びらなんて
受け取りたくもない
あなたが子供みたいに
顔を紅潮させている横で、
額に垂れ下がる影の隙間から
暗く、憧れてしまうから
あれが
心の、闇に消える瞬間ならばと
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