「軟弱者」/広川 孝治
 
覚えてるかい
自転車二人乗りで帰っていたあの日
夏休みの部活帰りだった
突然の雨を避けてバス停の小さな屋根の下へ
でも荒れる風に屋根は意味を成さず
どうせ濡れるならと
土砂降りの中へ
制服のまま
二人乗りで
大きな声で歌いながら
自転車を走らせた
意味もなく笑えてたね

結局次の日に
大熱を出して寝込んだ僕を
君はけろりとして
「軟弱者」とののしった
笑顔で
すこし寂しそうに
すこし心配そうに

今となっては
身を固めたスーツを雨に濡らすなんて
とんでもない話で

雨に濡れて
大声で歌いながら
道を行く人を見たら
きっと
キチガイだと思うだ
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