薄荷/Utakata
1.「もう子供なんかじゃないと思っていたのに」
涙が出そうになるたびに
缶の中のドロップをひとつぶずつ
口にちいさく押しこむ もの だから
雨粒が
薄い緑色で。
口の中なんて もう
溶けきらない薄荷の味しか
しやしない のに。
1.1.
ずっと遠くの土を
掘りおこすようにして
思い出を語りだし始めた
舌先を
黙らせるために
雨を飲み込む
叫びかけたまま凍りついた口が
横断歩道の上にずっと浮いている
犬が
尻尾を丸めて下をとおりすぎる
2.「遠い場所に行くことができると思っていた」
空の鞄ひとつ持って
帰らない旅に出る ふりをす
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