忘れないで/蜜柑
笑顔
幼い頃、祖父の皺くちゃな手で頭を撫でられるのが
大好きだった
そんな大切な事を
忘れてしまっていた
私は、すまないと思いながら
綺麗に掃除をした
朝日が差してきた頃
私は太陽におはようと挨拶をかわし
日々の疲れを癒すような涼しい風と
鳴り止まない蝉の鳴き声は
命の尊さを教えてくれているようだった
来年も会いに来るよと
墓石に語り掛けると
返事はないけれど
風がやさしく
"待っているよ"
と告げていた
背を向けて帰る私に
いつまでも
いつまでも
あの頃と変わらぬ、背中を曲げた祖父が
寂しい顔をして、皺くちゃな手を振っていた
いつまでも
いつまでも
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