調律師と靴紐/紫音
を奪いながら
切り刻んできた紐は
もう結びなおすことも難しい
それでも
調律師の少年は歌う
ファルセットの光は
闇夜にこそ輝くから
月も星もない夜
現われる
影も見分けが付かないほどに
旋律を奏でながら
やがて消えていく
星は掃除され
月はワインのつまみにされ
薄明かりはぼうと薄暮となり
闇夜は消されていく
調律師の世界は殺される
天使のような羽もない
ただの少年の調律師
やがて消えていく瞬き
調律師は大人へと調律され
喪失が成長を促し
大人の獏になる
鐘の音の祝福が
調律することさえも忘れさせ
流れに任された獏は
自分だけの世界へと帰る
音律の無い世界へ
解かれ切り刻まれた靴紐を残して
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