調律師と靴紐/紫音
 
を奪いながら
切り刻んできた紐は
もう結びなおすことも難しい
それでも
調律師の少年は歌う

ファルセットの光は
闇夜にこそ輝くから
月も星もない夜
現われる
影も見分けが付かないほどに
旋律を奏でながら

やがて消えていく
星は掃除され
月はワインのつまみにされ
薄明かりはぼうと薄暮となり
闇夜は消されていく
調律師の世界は殺される

天使のような羽もない
ただの少年の調律師
やがて消えていく瞬き
調律師は大人へと調律され
喪失が成長を促し
大人の獏になる

鐘の音の祝福が
調律することさえも忘れさせ
流れに任された獏は
自分だけの世界へと帰る
音律の無い世界へ

解かれ切り刻まれた靴紐を残して

戻る   Point(7)