調律師と靴紐/紫音
 
誰もいない路地裏の街灯の下
空を見上げて呟く
少女 一人
星も月もない夜に
膝を抱えてうずくまり
火照った脈を測りながら

忘れ去られた夢を食べながら
獏は大きくなった
誰も望みもしない
誰からも望まれもしない
大人になった
やがて空を翔るために

薄明かりが漏れる街並みの縫い目
旋律が縫い付ける虚無と現実
少年の声
ファルセットの響き
誰も気づかない暗闇の中
調律師は現われる

失われた境界
人と世界を繋ぐはずの
解けた紐を
再び結ぶために
調律師は歌う
善も悪も虚偽も真実も
全てそれが世界であると

曲がった胡瓜を捨て
葡萄から種を奪
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