やさしい/鈴木
芽吹いたばかりのこの蘖は自分が何の蘖であるかも知らない、が、恋を知った!
茎に赤み差し柔毛に潤い走る変化を僕は
ざわめき
と呼ぼう
そう、僕だ
僕は先日
珍しく積もった雪が革靴とアスファルトに及ぼす摩擦の軽減に驚く、その驚きが飽和水溶液中みたく血管へ沈殿していく有様に、おはようと話しかけたのだった。返答したのは例の蘖で内容は以下の四行であった。
祝詞って鳥、鬼になる非存
羅紗の現を呼び覚まし
かんなくずけずれ
萌芽、風のまにまに
しじまに帰らんと欲すごとき音の震えを僕は
さざめき
おののき
のどちらで呼ぼうか思案した。現代人の尊厳を理由に前者を選ぶと、築四十年のアパートの外壁の染みは
染み
になりアッと靴底から断末魔、そして履き主を転倒させた。その夜こめかみを走る痛みの中で僕は失われた伝播の残響を聞いた。
(初出 詩誌「未詳01」)
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