「夢の描き方」/ベンジャミン
 
彼はもう夢の描き方を忘れてしまった
自分で生きることを忘れてしまった

流されることの気楽さに慣れてしまった
痛みをまぎらわす悪戯に慣れてしまった

彼はもう夢など描かないと思っていた
自分はひとりなのだからと思っていた

いつか時が経てばすべては無に
せめて自然の一部にかえることを願った

海でもいい
空でもいい
水や空気の一部になれればいい


  ※


それから彼は毎日のように
海を眺めたり空を仰いだりした

忘れていた心地良さにひたる

思えばそれは幼年の頃から
あたりまえに広がっていた

彼はちっともひとりでなく
そんな大きなものにいつも
ゆったりと抱かれていたと

落ちくぼんでゆく夕景に
明日は何をしようか考える

夢の始まりはわからない
どこからどこまでがそうなのかも

だから彼は今
ただ自分の鼓動だけを感じようとしている
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