夜のための水/木屋 亞万
 
少女は紙を丁寧に折り
いびつな筒を作りあげた
彼女はそれを器だと言う
満足げに頷いて
人差し指に口づけた

指で器の底を擦っては
また人差し指に接吻
水が漏れないように
続いてゆくための
おまじない
器の周りには結露

少女が蝉取りから
帰宅する頃には
器になみなみと水
彼女は納得した顔で
蝉を窓から逃がし
新聞紙を持ってきた

宴会芸の手品のような
筒状にした新聞紙に
器の水を注いでいく
少女がアブラゼミの声を
喉から引っ張り出すと

新聞紙から紙吹雪が
生きている雪のように
静かに移動を始めて
地面で停止し指示を待つ
少女は約束通り
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