月と夜の森/こゆり
 
月夜の泡沫(うたかた)
ひらいた辞書に
針をおとす


夜の端を
そっとめくると
月は
その裏側で
輪郭をにじませる

言の葉は
月影を背負い
蝉時雨の風と
果てない旅に出る


もう戻ってはこない


流れゆく時間が
水面に浮かび
ゆっくりと
水の底へ
眠って

照らされるのは
温度を失ったものたち
影は無言で
その所在を伝える


繰り返される


耳を澄ますと
聞こえるしらべ
銀色に包み込む
月の鼓動
戻る   Point(13)